四方山話「元犬」テツの場合

「よう、テツじゃねえか、どうしたい?」

「いえね、ちょいと、ご隠居に聞きてえことがありやしてね」

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「なんだ、その聞きてえことってのは」
「実は、父ちゃんのことなんすが…」
「お前の父ちゃんがどうかしたのかい?」
「いえね、夜、寝床にはいるてぇ~と、いつも小説を読んでるみてぇで
 時より涙なんかを流してるんでやすよ」
「へぇ~あの男がねぇ~」
「へぇ、それで何を読んでるんです?って聞いたんですよ、
 そしたら時代小説だ。おめえには分るめぇって、言いやがるもんで…」
「時代小説ねぇ…」
「へぇ、それで誰のかって聞いたら
 池波正太郎だの、藤沢周平だのって言うもんで…」
「それがどうしたい?」

「へぇ、恥ずかしい話なんでやすが、あっしは字が読めねぇもんで
 いったいどうゆうものかと思いやしてね、
 それで、いっそのこと人間になれねぇ~もんかと…
 ご隠居に相談に来たってぇ~わけで…へぇ、」

「そうかい、そうかい、ところでぇ~お前は今年でいくつになったい?」
「へぇ、今年で五歳になりやす、人間様にたとえると35~6歳でやす」
「そうか、お前はイヌだったね…」
「へぇ、めんぼくねぇ~」

「別に謝ることはないんだよ、
 人も犬も同じ生き物には変わりはないからねぇ…
 そしたらお前、人間になればいいじゃないか…」
「えっ!人間に? やっぱり人間になれるんで?」

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「ああ~なれるよ! もともと犬は人間に近い存在なのさ、
 特にお前のような犬は、生まれ変わったら人間になると
 昔から言われているからね…」

「ってぇ~ことは? 死なねぇ~となれねぇ~んで?」
「そうだねぇ、生まれ変わるんだからねぇ…」

「そうでやすかぁ~…トホ へぇ、承知しやした!ごめんなすって!」
「おいおいテツや!早まるんじゃないよ!」

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「死ぬなんて、まっぴらごめんだ!
 どうせなら今すぐ人間になりてぇ~ そうだ!裏のお稲荷さんに言って
 白狐の野郎にちょいと頼んでみるか…」

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テツもバカじゃ~ありません
テツなりに、ちっちゃな脳みそで考えたあげく、
お百度参りを始めたんですな…

「どうか人間になれますように…
 早く人間になりてぇ~!!」

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そして、ある日気が付いてみると人間になっている…。

テツは大喜び。
これまで何かと優しくしてもらっていた父ちゃんのところへ
飛んでいきやした。

「父ちゃ~ん! 父ちゃ~ん!」
「なんだ! てめぇは!?」
「へぇ、テツです…」
「なんだと~ぅ!?」

突然見知らぬ男が、素っ裸で飛びこんできたものですから、
父ちゃんとしても驚いたのですが、どうも様子がおかしい…
汚い足で座敷を走り回ったり…
スリッパを銜えては振り回すは…
クンクン臭いを嗅ぎ回るかとおもうと、
ちゃっかりテツの布団の上に丸くなってしまいやした…

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「おい、おい! そこはテツの布団だよ!」
「しょうがねぇ~男だなぁ そうだ!テツを呼べば退くだろう…
 お~い、テツ~!、テツはおらぬか。テツは居ぬか~、テツはイヌか~」

するって~と男は、「へぇ、今朝、人間になりやした…」

おあとが、よろしいようで…

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「お粗末さんでござんす…
   ちゃんとお辞儀もできやす…」


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この記事へのコメント

2013年12月07日 13:56
父ちゃんの創作落語にはいつも感心しています。特に今回のは秀逸ですね。分かりやすいので老人ホームのボランティアの時に 演じてみたいほどです。「青菜」や「義眼」などを演じたこともありますがなにしろ
にわか噺家のせいもあってそれらは あまりウケませんでした。
父ちゃん
2013年12月07日 16:44
音さん
お褒めにあずかり、めんぼくね~
老人ホームで落語を? スゴいですね~
めえりやした!
落語は好きで、見たり聞いたりするけど
演じたりまではできません…
犬のお噺もいろいろあって「元犬」は
分りやすいですね…
さぶお
2013年12月09日 21:51
テツ君の画像が可愛すぎて‥‥
父ちゃんの噺が霞んでしまった!
めんぼくねぇ~!
数年前に初めて落語を見た時、今のお笑いと違って一語一句聞き逃せないと思いました!おもしろかったけど、気合を入れて聞いてましたよ!
父ちゃん
2013年12月10日 10:23
さぶお さん
テツのお辞儀のカット
両足とも揃えているのがいいでしょ…!

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